賛否両論いろいろとある映画だと承知していますが、私は結構好きですね。
批判の論点というのは、大きく3つに分かれるかな、という気がします。あくまでもざっとレビューサイトを見た感じですが。一つ目がストーリー展開の問題。ほとんど論理性やら整合性やら根拠やらがないままトントンと進んでいく(から、ついていけない、分からない、つまらない、感情移入できない、など)。二つ目、声優が素人。日本には素晴らしい声優がたくさんいるのに、どうしてプロの声優を起用しないのか(宮崎駿の声優嫌いは有名だとか、所ジョージの声を聞くと所ジョージにしか思えない、とか)。最後に、映画としての主張がない(いったい何を言いたいのかわからない)。画のクオリティが高いことは誰もが認めるようです。
ポイントは導入部でどこまで頭を空っぽにできるか、ってところでしょうか。長いプロローグが用意されているので、ここで心と頭を空っぽにしてしまう。あとはただ受け入れていくだけです。私は全編本当に「ほんわか」な気持ちで見られました。簡単に言えば子供向けの映画です。それも、下手に「小説」なんて読み始める前の、絵本をめくっている年代の子供たち向け。そういう子供達にはたぶんものすごく面白い映画です。だから、大人目線で「ストーリーが…」なんて言う人は観てはいけない。ストーリー? ものすごくシンプル。これが分からないって人は、5歳からやり直したほうがいい。宮崎アニメを下手に「大人も見られる」「大人向け」と理解している人は、特に幻滅すると思うので、見ないほうがいい、と忠告しておきます。
「子供目線」となると、気になる声優さんの問題もなんだかどうでもいいことに思えてきます。確かに「へたくそだなぁ」と私も思ったのですが、この下手っぷりが「お母さんが子供に読み聞かせる雰囲気」みたいで悪くないではないか、という気持ちになってきました。
随所に宮崎アニメらしい描写もあって、十分に古くからのファンを満足させてくれる作品にも仕上がっています。5歳児を描かせると宮崎さんは天才的です。特にポニョの愛らしいこと。古生代の海の生き物も素晴らしい。「宮崎走り」も健在です。
公開時には「ハム好きのストーカーきんぎょの物語」なんて表現を聞いたのですが、5歳児はストーキングしませんし、きんぎょじゃなくて魔法使いの娘だったし、親から与えられた名前は「ブリュンヒルデ」って立派なものだったし(ワーグナーの「ワルキューレ」の音楽も効果的に使われてました)。悪評の所ジョージさん演じるフジモトは、私はかなり気に入りましたよ。「人間を辞めるのがどんなに大変だったか」の苦労話をぜひ聞かせて欲しいな、と思いました。
批判したい&貶したい人の気持ちは想像できなくはありませんが、私は好きです。
こういう映画なら、ジブリには頑張ってもう一作くらい作って欲しい。子供じゃないけれど、こういう映画を普通に楽しめる自分は、「けっこう余裕あるな」と思えるし、嫌な感じではないから。感覚的には私が大好きな初期ジブリ作品の感じに近く、また新しい一歩を踏み出した作品、と捉えています。
(この作品に思想がないという意味ではありませんが、)あえて当たり前のことを言うと、主張や思想を盛り込むだけが映画ではありません。で宮崎駿さんが描きたかったのは、ごくごく普通のことでしかないのに、理解できないという人を私は理解できません。思想以上に、もっと感覚的なものがあるのです。感性は理屈を超えるものだし、それを作品に凝縮できる宮崎駿という人は、やはりすごいと思う。「もののけ姫」以降、思想が前面に出すぎているのに辟易していたので、いろんな意味で原点に回帰したこの作品が、末永くちびっこたちに愛されることを願ってやみません。